焦がれて請いた

仰向けに寝転んで本を読んでいた。
読み慣れた文庫本の文を追うのは
落ち着き、静かで、心地よかった。

不意に出てきたその数文字を見て
本から喉に、ナイフが降ってくるようだった。
何本も、何本も。


主役の名前でも特に大事な単語でもなく、
たった三回出てきただけ。


黒い柄のついた銀の刃。
鈍色の光。
どこで見たとも知れないナイフが見えるようで、
目を逸らしても消えなかった。


昔振られた人の名前を聞くと
ただの友人とは未だに違う反応を心ではして、
表情に出ないか不安になって、
随分薄れてもまだ息が詰まる。

失恋は忘れられない、薄れるものだと
詩人は言うし私も知ってる。

生々しい傷を抉っても良いことなんてなくて、
5年後には他事を考えているだろう。


いま、つらい。


振った人が
視界を掠めた瞬間、
耳慣れない名字を発した声。


私の拙い人生経験で、それが今の心情に最も近い。


たった数文字の大学名に
私は恋をしたのだろうか。


今でもあなたは私の光


死別には程遠いのに
未練がましく縋り付く
情けない人間になったような気がして。

それでもあなたが大好きでした。